福島県の若年者に甲状腺検診はなぜ必要か(その2)
2012年4月
福島県農協会館診療所
所長 伊勢 重男

福島県農協会館診療所 所長 伊勢 重男
 前回はなぜ福島県の小児に対し甲状腺検診を行われなければならないかについてお話ししました。かいつまんで前回を要約しますと、チェルノブイリの原発事故が起こった約5年後から近隣のベラルーシ州に小児甲状腺癌が急増し、大問題になったことです。なぜ子供に甲状腺癌が一気に増えたのでしょうか。
 甲状腺は甲状腺ホルモンを作るため常時ヨウ素(ヨード)を必要としますが、特に内陸部のベラルーシでは不足していました。そこで原発事故で放射能を帯びたヨードは甲状腺に取り込まれ易くなります。それが甲状腺の細胞遺伝子に障害を与えてしまい、甲状腺癌を引き起こす契機になったと考えられています。特に子供は発育のために細胞が活発化しているため、それだけ放射能の影響も受け易く、癌になり易いのかも知れません。そこでベラルーシでの経験を踏まえて、福島県では18歳以下子供の甲状腺癌検診を実施することになりました。
 これに先立ちいろいろな団体がすでに福島県の子供たちの甲状腺検診をやっているようです。ここでは甲状腺診療の専門家は少ないようですが、マスコミはその結果をセンセーショナルに煽っています。2月には某週刊誌が「郡山では甲状腺癌疑いの子が2例見つかった」など騒いでいますが、甲状腺の専門家たちからいわせれば、掲載された超音波写真は胸腺を甲状腺腫瘍と誤認したらしく、全面的に信憑性に乏しいと言わざるを得ません。
 比較的信用できるのは、福島県の子供たった130名に対して行った信州大学病院の甲状腺検診ですが、ここでは10名に経過を見てよい程度の甲状腺ホルモン低下がみられたといいます。しかし詳しいことは報道されておりません。もちろん癌はなかったそうですが、それでも新聞の見出しでは「福島の子 健康不安 切実」と出ていました。
 ここで大切なことは、各種「検診」というものは症状のない健康と思われる人を対象にして病気を早期に発見するということです。やれば必ず特定の病気(例えば胃癌、肺癌、子宮頸癌検診など)に対し一定の割合で異常所見が見つかります。異常といっても放置してよいものから癌まで様々です。小児においても同様でしょう。
 例えば、福島厚生連の成人人間ドックでは、特に女性に多い「橋本病(慢性甲状腺炎)」を対象にして「甲状腺自己抗体」を検査項目に加えています。
 この項目では、10人から15,6人に一人の割で(10~6%に)陽性に出ます。この方々を要精密検査として甲状腺ホルモンを測りますと、99%の方にホルモン異常は認めません。しかしこれに超音波検査を加えますと、意外に多くの方々に特に問題とはならない「正常には見られないけれど良性と判定される所見」が見つかっています。所見ありと言われれば誰でも不安の種となりそうですね。しかしこれは特別に精査したから指摘されたからであって、受けなければ知らぬが仏で一生を過ごす人が大部分であることを御理解下さい。必要以上に不安に怯えることはありません。頭の隅に置いておくだけで十分です。
 ただし「甲状腺自己抗体陽性」の人は将来甲状腺機能低下症となる可能性が秘められていますので、経過観察必要者として定期的な検査をお奨めしています。残り1%未満の方が治療の対象になるというのが現状です。しかし成人においても甲状腺の検診は一般的でなく、あまり行われてはいないようです。
 ところが、小児の甲状腺検診などは、今まで金沢大学と千葉大学の研究的な例外を除き、ほとんどといってよいくらい行はれていないのが実状です。しかもデータは昭和末期のもので指の感覚に頼る触診しかなく、ましてや小児の甲状腺超音波検診に至っては皆無です。
 今回の小児の甲状腺検診は癌の早期発見が究極の目的ですので、まず最初にやるべきことは指で探す触診より精度の高い超音波を使っての検診となります。
 例え今回異常がないと判定されても、将来チェルノブイリのように小児甲状腺癌が早期に現れる可能性はゼロではないでしょう。正直言ってチェルノブイリと同じような結果になるかどうかは誰も分からないし、今のところ神様しか分かりません。私自身はチェルノブイリとは状況が異なるので、福島の子供たちはあのようにはならないだろうと予想しています。
 チェルノブイリ(ベラルーシ)では初期のデータはなにもなかったそうです。今なんでもなくても、万が一4,5年後に甲状腺異常が見つかったとしたら原発事故のせいかも知れないと言えるでしょう。そうであっても厳密な学問的根拠を要求して原発事故との関連性を認めない向きも出てくるでしょう。ここで水俣病の歴史を思い出して下さい。私たちはあの轍を踏みたくないものです。
 その時のためにも将来に向けて今データを採っておくことはとても大切なことです。それに超音波検査は、予防注射や採血などと違って、子供にはまったく苦痛を与えないところが大きな利点です。ただしこの検査はどこでもできるという訳ではありません。順次各地区で行うよう行政で呼びかけがあるはずですから市町村の情報発信に注意を払っておきましょう。
 世の中には、学者のデータ作りのためのモルモットにされたくないと感情的に反発するお母さん方もいるそうですが、以上のことを十分理解して子供さんには検診を受けさせようではありませんか。

健康アドバイス

 

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