以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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Dr.メッセージ

ピロリ菌感染症の最新情報
2013年4月
福島県農協会館診療所
所長 伊勢 重男

福島県農協会館診療所 所長 伊勢 重男
 以前この欄でヘリコバクター菌については解説したことがありましたが、当時この細菌に罹っている人の治療には健康保険上の制約がありました。しかし最近それが一部改正されたので、お知らせします。
 ヘリコバクターピロリ菌(HP菌あるいはピロリ菌と略)とは何か
 本来一般の細菌は、食物を消化するための強力な胃酸の環境下では生存できないことになっていますが、ピロリ菌は胃の中に平気で住み付いている困った菌です。しかも一旦取り付いてしまうと一生消えないといわれます。
 この菌に感染しても大部分の人はほとんど無症状なことが多いのですが、人によっては何となく胃がモタレるとか、時に胃がやむような症状があります。
しかし長期にわたって感染していると、「慢性の胃炎」をもたらします。
 ピロリ菌の感染経路
 実はまだ明らかな経路は分かっていませんが、口から入ることには間違いありません。戦前と戦後しばらくは上水道が普及しておらず、井戸水を飲んでいた人が多かったですし、衛生環境も今では考えられないくらい不潔な状態でした。このような環境では容易にピロリ菌にも感染し易かったでしょう。
 その証拠に年代別の感染率を調べてみますと、1950年代においては、30歳以上の年齢層が80%以上感染していたと推測されます。しかし2010年になると、30歳以下の感染率が20~30%以下に激減しているのに対し、60歳以上の感染率は依然として80%以上の高率を示しています。
 またピロリ菌はほとんどが幼年期に感染すると言われます。なぜなら乳幼児期の胃酸は酸性度が低く、菌が住み付き易いためと考えられています。(逆に言うと、成人になれば夫婦間や恋人同士のキスや盃の呑みまわしでも感染の機会は低いと考えられています。)ですからおじいちゃん、おばあちゃんが食べている時に使う箸でついでに孫にも食べさせるようなことは止めた方がよさそうです。
 感染のなれの果ては
 ピロリ菌の感染が長く続くと、慢性胃炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍になり易く、さらに問題なのは、日本人に多い胃癌になるリスクが大きく高まることです。特に胃内視鏡検査で「慢性委縮性胃炎」と判明した場合は、胃液の酸性度が低くなるため要注意となります。ですから中高年層に多いピロリ菌感染者を撲滅すれば、日本人に特に多い胃癌の発生率を大幅に下げられるだろうと考えられます。そこでピロリ菌感染者にたいして菌退治(除菌)が強く勧められているわけです。
 除菌の条件として
 今までは除菌を健康保険でやる条件は、「胃十二指腸潰瘍に罹っていること」に限られていました。しかし今年の2月から保険適応が「慢性胃炎」にまで拡大されました。胃がんの発生率を下げるためには朗報です。
 とはいえ、感染しているかどうかを保険で調べるには、条件として胃の内視鏡検査を受け、「慢性胃炎」の診断がなければなりません。この所見がなければピロリ菌感染の検査は保険の対象になりませんのでご注意下さい。
 そしてピロリ菌感染の検査が陽性と判明すれば、ここで初めて除菌処置に進むことになります。
 最近ピロリ菌検査をやってほしいという希望者が増えてきていますが、
以上のような手順を踏まなければ保険適用にならないので、ご理解いただきたいと思います。