ピロリ菌感染症について
2017年9月
福島県農協会館診療所(所長)
重富 秀一
 胃の表面は粘膜で覆われていますが、良く観察すると多数のくぼみが存在しています。くぼみの奥には様々な種類の細胞で構成される胃腺があって、胃酸、消化液、粘液などを分泌しています。食べ物が胃に入ると、その刺激によって分泌されたガストリンというホルモンが胃壁細胞の受容体と結合し胃酸が分泌されます。胃酸は強い酸性(pH1〜2)を示すので、食物とともに胃の中に入り込んだ細菌のほとんどは死滅します。ところが、強い酸性を示す胃の中でも生きのびることができる細菌がいます。それがピロリ菌です。胃の中に細菌がいるという説は100年以上前からあったそうですが、実際にそれが証明されたのは1982年です。ピロリ菌の正式な名称は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と言います。インターネットで画像を検索するとお分かりのように、ピロリ菌は、大きさ約4ミクロン、右巻きに2〜3回ねじれていて、一方の端に数本のべん毛が尻尾のようについています。胃の出口付近(幽門部)で発見されることが多く、くるくるまわりながら活発に動いています。ピロリ菌は胃粘膜表面に張られた粘液の中にいます。自分でアンモニアを産生して胃酸を中和させるので、強い酸性の環境でも生存できるのです。さて、ピロリ菌に感染するといったいどうなるのでしょう。ピロリ菌を発見したマーシャル先生は、自分でピロリ菌を飲んで10日後に胃の粘膜を取って調べました。すると、自分の胃には急性胃炎がおこっており、胃炎の場所にはピロリ菌がいたそうです。その後の研究で、ピロリ菌感染はさまざまな病気の発症に関係していることがわかってきました。ピロリ菌に感染するとほとんどの人は慢性胃炎になる傾向があります。自覚症状がない人であっても、内視鏡検査をすると慢性胃炎の状態になっていることが確認できます。また2〜3%の割合で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症します。胃潰瘍を何回も再発する場合はピロリ菌感染症を疑います。胃MALTリンパ腫という血液系の病気とも関連があるといわれています。そのほか胃ポリープ、特発性血小板減少症、萎縮胃炎、胃がんなどとの関連も指摘されています。ところで、19世紀まではピロリ菌と人間はほぼ100%共存していましたので、ピロリ菌感染のメリットもあるのではないかと考えている人もいますが、詳しいことは分かっていません。ピロリ菌感染はほとんどが5歳以下で感染するといわれています。両親がピロリ菌に感染していると、子供への感染率は40%になります。日本人のピロリ菌感染率は、10〜20歳で20%、高齢になるほど上昇し、70歳以上では70%と言われています。現在ではほとんどすべての医療機関でピロリ菌感染の有無を検査することができますが、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・早期胃がん治療の既往があるか、内視鏡検査で慢性胃炎を診断されていないと医療保険は適用されませんが、自覚症状がなくとも健診で慢性胃炎と確実に診断された場合には、ピロリ菌感染の有無を検査することができます。もし感染が確認されれば治療も保険適用となります。除菌治療は、2種類の抗生物質と胃酸を押さえる薬を1週間のめば終了です。1回の治療で除菌できなかった場合は抗生物質の種類を変えて再度治療することができます。2回の治療で90%以上除菌できるといわれています。最後に、ピロリ菌の除菌をすれば胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの病気にはならないという補償はありません。病気の原因はさまざまであり、ピロリ菌を除菌するということは、病気の原因を一つ取り除いただけのことです。除菌後も健診を受けて、さまざまな病気の早期発見に努め、元気で長生きしましょう。

H. Pylori感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版日本ヘリコバクター学会


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