『災害時とくすり』 |
2011年8月19日放送
双葉厚生病院
薬剤科長 伴場光一
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本日は、「災害時とくすり」についてお話します。
≪“薬の情報”が命にかかわる≫
今回の東日本大震災では、自宅が流されるなどした被災者の多くが、「毎日飲んでいた薬」を失っています。しかし、普段通っている病院や薬局も被災し、別の医療機関に頼もうにも「薬の種類が分からない」という事態も起きました。時に命にかかわるだけに、患者さん自身が普段から飲んでいる薬を把握し、さまざまな方法で管理することが重要になります。
≪処方薬の特定が難しい≫
被災地では、薬がなくなった患者さんが 医師や薬剤師に処方を求めたものの、飲んでいた薬を特定できず、適切な対応ができなかった例があったようです。1995年の阪神・淡路大震災でも同じことが起きました。
糖尿病や高血圧症、気管支ぜんそく、てんかんなどの慢性疾患の患者さんが、毎日飲んでいる薬を飲めないと、命にかかわることがあります。また、飲むのをやめることで一時的に症状が悪化してしまう、「薬のリバウンド現象」や「離脱症状」などの重大な副作用が起こるかもしれないのです。
≪“薬の情報”とは≫
非常時に、患者さんにとって必要な“薬の情報”とは、あなたが飲んでいる、あるいは使っている「薬の名前」と「用法・用量」です。
高血圧治療薬の一種アムロジン錠の“薬の情報”を例に上げてみましょう。
「薬の名前」は、アムロジン錠5mgです。
アムロジン錠には、2.5mgと5mgの規格があります。薬の名前の類似、複数の規格には注意が必要です。
次に、「用法・用量」は、1日1回、1回1錠、朝食後に服用。1日に何回、そして1回に何錠を、いつ飲むのかが重要です。
これだけわかれば医師や薬剤師は、あなたの薬を正しく出すことができます。
≪“薬の情報”の管理≫
命をつなぐのは“薬の情報”です。
“薬の情報”を上手に管理するには、薬の情報を簡単にまとめた「お薬手帳」や「お薬の説明書」が便利です。これが手元にあれば、患者さんがどのような薬をどのくらいの期間で使っているかがわかります。ただ、非常時は、「お薬手帳」にまで気が回らない場合が多いようです。今回の東日本大震災では、津波の被害が大きく、「お薬手帳」を非常用持ち出し袋に入れていたのに、持ち出し忘れて、袋ごと流されてしまったケースもあったそうです。
こうした事態を防ぐにはどうすればよいでしょうか。
それでは、対策の例をいくつか紹介します。
一つ目は、“薬の情報”をカードサイズの用紙にメモし、財布に入れるなどして持ち歩けば、「お薬手帳」の代わりになります。
二つ目は、携帯電話で「薬」や「お薬手帳」の写真を撮影しておく方法もあります。時々、薬が変わった場合などは、最新の情報に更新しておくことが必要です。
三つ目は、意外と有効なのが、離れた場所にいる親戚や知り合いの方に自分の薬の情報を預けることです。内容をファクスやメールなどで送っておけば、避難所から親戚に連絡し、正しい情報を手に入れることができます。ただ、災害直後では電気が来ない、電話が通じない時期もありますので、復旧後にこの方法ですぐに対応してもらってください。“薬の情報”二次元管理の一つの方法と考えてください。
このように情報の分散は、すべての情報がなくなってしまう不測の事態を回避する いわゆる危機管理の極意の一つになります。
≪おわりに≫
自分のからだを守ろうと考えたら、いろいろな工夫が必要です。さまざまな方法を組み合わせて可能な事から始めてください。
具体的にどうしたらよいかわからない時は、病院あるいは調剤薬局の薬剤師に相談してみてください。きっと、手助けしてくれると思います。
いつ起きるか分からない災害に備え、自分でできる“薬の情報”管理を日頃から準備しておくことをお勧めします。
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