以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

『新生活と不安』
2015年7月放送
塙厚生病院 臨床心理士
佐々木 愛

 みなさん、おはようございます。私は、塙厚生病院で臨床心理士をしております佐々木と申します。今日は、新生活のなかで感じる不安とその対処についてお話させていただきます。
 さて、ひまわりが日に日に背を伸ばす7月となりました。4月から新生活をむかえられた方々も、ほっと一息ついている頃でしょうか。新しい環境に慣れつつある一方で疲れを感じたり、「今の環境で自分はやっていけるのか?」「これからどうなるのだろう?」と不安を感じたりはしていませんか?
 そのような不安は、環境の変化によるストレスから生じた感情です。不安を感じると、焦ったり、自分のことを責めたりしがちですが、不安を感じることは決して悪いことではなく、ストレスから自分を守るための正常な反応だといわれています。また、それは”いつもより用心するように”と自分に注意を喚起するシグナルでもあります。
例えば、次のような状況を考えてみましょう。あなたが道路を渡ろうとしたとき,大きな車が猛スピードで走ってきました。あなたはどうなりますか?きっと心臓がドキドキして,「このままだと車にひかれてしまう」と不安になるでしょう。そして歩道の方まで走ってもどろうとするでしょう。
 つまり、不安は、わたしたちに危険を知らせてくれる、言わば「警報装置」の役割を担っています。この「警報装置」があると,人間は危険を先に感じることができ,その危険から逃れるために準備をすることができるようになるのです。つまり,不安は人間の生命維持のためには、欠かせないものなのです。
 また、もうひとつの不安の有益な側面について説明していきます。それは、高度な技術や複雑な思考を要する活動を行うのを助けてくれるという点です。重要な仕事をしなくてはいけないとき、試験を受けるとき、スポーツの試合をしているときに完全にリラックスした状態では、ベストの結果は得られないでしょう。
 不安と成績の関係については、心理学者のヤーキーズとドッドソンが、不安が落ち着いている状態でも、過度に不安になっている状態でも成績は低下してしまうことを明らかにしています。つまり、人間の活動にとって一番良いのは適度な不安を抱えていることが良いことになります。
 ですから、新生活のなかで感じる不安は、無理になくそうとしたり、目をそむけてしまうのではなく、自分のなかで「なんとかやれそうだ」というところまで、少しだけ軽くできればよいのかなと思います。
 そのためには、まずは、生活リズムを整えることをおすすめいたします。起床や就寝時間、食事や入浴の時間を一定にして、休日も生活リズムを保ちながら、しっかり休養をとりましょう。生活リズムを一定に保ち、規則正しい生活を心がければ、心身ともにエネルギーが備わり、ストレスや不安を感じにくくなります。
 人は、不安を感じると、交感神経が刺激されるために、呼吸が速くなるといわれています。呼吸が速くなると、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳や体内の血流が悪くなります。そうなると、頭痛がしたり、頭の回転が悪くなったり、さらに心が不安定になってしまいます。
 ですから、不安を感じたときには、深呼吸をするようにしてみてください。ゆっくりと深呼吸を行うことで自律神経を安定させることができるからです。
 深呼吸を行うときのポイントとしましては、息を吐くことに意識を向けてみてください。人の平均の呼吸数は1分間に12回程度と言われていますが、少し遅いスピードにします。3秒で吐いて3秒で吸うくらいのリズムを目指して見ましょう。もちろん、自分がやりやすいペースに変えても構いません。体の姿勢は、横になれる環境であれば臥床して、そうでなければ椅子に腰掛けて行うと、取組みやすいと思います。軽く目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をすることで、今まで感じていた不安が軽くなった実感を持てるようになります。
 もしも、心と体に何らかの症状が一ヶ月以上続くときには、病院で診察を受けることをお勧めいたします。早めの受診は、早期回復が期待できますし、深刻な症状に陥らずにすみます。
 最後に、重要なことは、不安を感じることではなく、「不安に振り回されて、いま現在の大事な時間を侵食されないこと」が大切です。いま現在の「新生活」を、心と体の調子を整えながら乗り切っていきましょう。
 それでは、今日もさわやかな一日をお過ごしください。