以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

「寝たきりにならないためには何を食べる」
2016年4月放送
白河厚生総合病院 副看護師長
 内山 喜重

 おはようございます。今日は寝たきりにならないためには、何を食べる?というテーマで、低栄養に注意と筋肉は大事というお話をさせていただきます。


 「今どき低栄養なんて…」と思っていませんか?低栄養とは、エネルギーとたんぱく質が欠乏した状態、健康な体を維持し活動するのに必要な栄養素が足りない状態をいいます。高齢になると、うまく食べられなくなったり消化機能が落ちたりして、栄養も水分も充分に摂れなくなることが少なくないのです。実際に自分は健康だと思っている高齢者の2割近くがこの低栄養の傾向にあるという、厚生労働省の調査結果もあるくらいです。


 高齢になると若いころより体の筋肉や水分が減ってくるため、低栄養になると
 ①筋肉や血管が弱って、転倒や骨折をしやすくなる。
 ②脳出血のおそれもでてくる。
 ③免疫力が落ちることで肺炎などの感染症にもかかりやすくなる。
 それらが重なってさらに食べる力が失われ寝たきり状態や死に至る危険も高くなります。高齢者にとっては、肥満やメタボよりもはるかに警戒が必要です


 低栄養は本人も周囲も気づきにくいものです。健康診断を受けたら、血圧や血糖値、体重の変化にも目を光らせましょう。みなさんは体重を毎日量っていますか? 病院に行ったときや保健センターなどでも体重は量れます。自分の元気な時の体重は知っておきましょう。


 次は筋肉の話です。最近よく聞かれる言葉でフレイルというのがあります。
 フレイルとは、高齢者の筋力や心身の活力が低下した状態のことをいい、要は介護が必要になる一歩手前の状態のことです。特徴としては、フレイルは十分に改善できる可能性があり、改善されれば生活の質の向上につながります。また放っておくとフレイルの段階を経て要介護状態になり、寝たきりにもつながります。筋肉は20〜30歳代をピークに、年を重ねるごとにだんだんと衰えますが、老後も健康的な生活を送るためには、20〜30歳代の筋肉量に近づけるのが理想です。筋肉の減少は足から現れます。なにも対策をとらなければ、60歳代になると20歳の時と比べて、一般的に腕の筋肉量は10〜15% 足の筋肉は40%も落ちるのです。大きなケガや重い病気になったとき、私たちの体は筋肉を分解してエネルギーを作ります。そして筋肉を分解することでアミノ酸の一種であるグルタミンを合成し免疫細胞のリンパ球を活性させます。つまり、筋肉がケガや病気と闘えるからだを作っているのです。
 また、糖尿病が進行すると筋肉が減りやすくなることもわかっています。その理由としては、筋肉への血糖のとりこみが充分にできないため、体は筋肉を分解してエネルギーを得ようとするからです。そのため、糖尿病の悪化予防という点からも筋肉が多いほうがよいのです。


 40代50代はがんや糖尿病などの病気にかからないことが健康といえます。一方高齢者は「病気になるのはあたりまえ」。腰痛、高血圧、白内障や難聴など命に直結するわけではないが、生活の質(QOL)の低下につながる病気を発症しやすくなります。高齢者が健康を保つためには「フレイル」にならないことが重要です。フレイルになると、人と接する機会を拒み、食に対する意欲が低下し食生活のバランスを乱します。また体力・筋力の低下、判断力・認識機能低下、さらに自ら外に出るのが億劫となり日常生活における活動性の低下につながります。このような悪循環にならないためにも栄養面からみて予防食が必要となってきます。
 20歳の青年期に比べると70歳の高齢期では、一日に必要とされる食事の総エネルギー量は減少しますが、同じくらいの体重の人の場合、筋肉量や健康を維持するためには、同じ量のタンパク質を必要とします。そのため、一日に必要とされる総エネルギー量に占めるタンパク質の割合は増加します。食事摂取基準の1日当たりのタンパク質の推奨量は、70歳以上では男性60グラム、女性50グラムで、18〜69歳の推奨量と同じです。通常タンパク質は筋肉、骨、ホルモン、酵素などの合成に利用されます。しかし食事摂取量が少ないと糖質がもっとも早くエネルギーとして利用され、それでも摂取不足になると脂質、最後にはタンパク質までエネルギー源として利用されてしまいます。
 フレイルを予防する食事とは、1日のエネルギー摂取量の確保を前提におき、タンパク質を効率よく摂取するということです。たんぱく質といえば、魚・肉・大豆・乳製品・卵に多く含まれています。ただ、加齢とともに「若い頃のように食べられなくなった」と感じている人も多いと思いますので、意識して食べることが大事になってきます。タンパク質を分解し吸収を高めたり、合成を促進する働きがあるのはビタミン6です。肉、魚にも多く含まれますが、ごまやにんにく、バナナ、さつまいもにも多く含まれるので一緒に摂取すると良いでしょう。
 食が細くなっておかゆくらいしか食べられなくなっても、おかゆだけでは栄養はぜんぜん足りません。おかゆに卵や少しの青物でも入れる工夫をして食べてください。また、おやつの時間をうまく利用するのもいいです。牛乳を飲んだり、ヨーグルトをたべたり、果物を食べたりしましょう。
 では、しっかり食べて元気でいきいきした毎日をお過ごしください。