以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

身体拘束について
2016年12月放送
厚寿苑 主任介護士
青田 浩二

介護の身体拘束は、どこからが当てはまるのか?
「身体拘束」と聞いて、何をイメージしますか?ベットに手足を縛り付けたり、椅子と身体を鎖で繋いだり、といったハードなケースを想像する方も多いかもしれません。しかし、実は身体拘束の定義はもっと広く、とても身近にあるものなのです。今回は、どこまで通常の介護で、どこからが拘束になるのか?介護現場での経験をもとに解説したいと思います。

3つの身体拘束「スリーロック」について説明します。
身体拘束を定義する「スリーロック」という言葉があります。物理的な拘束だけが身体拘束ではない、ということがよく分かる内容です。

まずスピーチロックですが
スピーチロックとは、言葉で相手の心身の動きを封じ込めてしまうこと。これは、一番難しい「言葉による拘束」で、「ちょっと待っててね。」「〜しちゃダメ。」や、「立ち上がらないで。」「どうしてそんなことするの。」のように叱責の言葉も含まれます。徘徊や収集癖など、周辺症状がでている認知症高齢者に対して言ってしまいがちです。ただ、どこからスピーチロックにあたるのか、明確な基準はなく、多くの介護現場で行われているのが実情です。

続ていドラッグロック
ドラッグロックとは、薬物の過剰投与、不適切な投与で行動を抑制すること。夜間、声を出してしまったり、眠れない、徘徊してしまう、昼夜逆転している等、施設にはいろいろな方がいます。その行動を抑制するために、眠剤や安定剤、泌尿器系の薬でコントロールすることがあります。これも、拘束のひとつに当てはまります。

3つ目にフィジカルロック
物理的な拘束をして身体の動きを制限すること。「身体拘束」と聞いて、一番イメージしやすいのが、このフィジカルロックです。紐や抑制帯、つなぎ服といった道具で行動を制したり、ベッド周りに柵を設置してベッドから降りられなくしたり、部屋に鍵をかけて出られなくすること等がこの行為に当たります。
厚生労働省が出している「身体拘束ゼロへの手引き」では、身体拘束を下記に定義しています。
 1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
 2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
 3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
 4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
 5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、
   手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
 6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、
   車いすテーブルをつける。
 7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
 8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
 9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
 10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。などです。
次に、一見すると日常の介護の延長で身体拘束ではなさそうに見えるものの、実は拘束しているという例をいくつか挙げてみます。

自分で降りられないように、ベッドを柵で囲む
ベッド4柵本を使って囲んでしまうのはもちろん拘束ですが、ベッド柵が3本であっても利用者さんが降りられない状態であれば拘束です。(例えば、降りる方のベッド柵を1本L字バーにして、柵を閉じてしまった場合等)また、ベッド柵片側2本であっても、もう片側を壁に付けていたりすると降りられないので拘束です。それから、ベッドから畳・布団に変更したことで、立ち上がり・起き上がりが出来なくなるなど利用者さん自身の動きを阻害することも拘束にあたります。

立ち上がりにくい椅子を使用する
わざと重い椅子に利用者さんを座らせて立ち上がれないようにしたり、椅子を壁や柱にぴったり付けて自力で立ち上がれなくするのも拘束に当たります。また、食事のために車椅子から椅子に移乗し、食後利用者さんが自力で車椅子に戻れない場合も拘束です。

ただし、どうしても身体拘束をしないといけないケースがあります。

身体拘束は、人としての尊厳を傷つけ、身体能力の低下にもつながります。そのことを十分に理解した上で、きちんとした手順を踏み、利用者さんの生命を守るために他に方法がない場合のみ、一時的に行うことが可能です。

それは、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件を全て満たしている場合です。
私が以前勤めていた職場は、身体拘束を行わない方針で、普段の介護でも徹底されていました。しかし、認知症に伴う精神症状で暴力行為が激しくなってしまい、他の利用者さんにも危害を加える危険性がとても高い方が入居している時に夜間のみ、その方が居室から出て来られないようにドアに紐を付けて縛っていたことがあります。その1週間後には病院に入院されたのですぐに解除されましたが、身体拘束は利用者さん本人のみならず、介護職員のモチベーションも下げてしまうので、やらない方がいいことだということを痛感した出来事でした・・・。

「拘束も仕方ない」と申し出る家族が増えている?
万が一転倒・骨折してしまったら大変。職員の手を煩わせないように・・・。そんな思いからか、ご家族の方から「動けないようにしてもいいです」と申し出るケースも少なくありません。特に、一度転倒して骨折・入院してしまった利用者さんが退院して施設に戻ってくるときに言われることが多くありました。また、点滴を自己抜去してしまったり、バルーンカテーテルを抜いてしまう方のご家族からも、「ミトンを着けてほしい」、「ベッドに手を縛ってもいいのでは?」と言われたことがあります。
もちろん、自分の家族ですから、本当はそんなことしたくないに決まっています。でも、介護職員が足りていないことを知っている場合も多く、職員がいないなら…と申し出る方も多いのです。その度に、身体拘束はやってはいけないことであるし、利用者・家族・職員にとっても悪影響を及ぼすと説明させてもらって、代わりの方法を何とか考え、提示させてもらっていました。

身体拘束を本当に無くすには、何が必要?
身体拘束をなくすために、介護施設では色々な取り組みが行われています。
 ● 身体拘束の定義を職員個人が理解する
 ● 機能訓練指導員の力を借りて、足の筋肉を付けるリハビリをする
 ● 日中は極力デイルームで過ごす等、職員の目が届く環境を整える
 ● かきむしりや点滴の自己抜去がある場合、5本指の手袋をはめる
 ● ※指が使える手袋なら拘束には当たらないとされています
最も必要なことは、職員ひとり1人を責めるのではなく、施設全体が拘束をなくしていこうという姿勢をもって取り組んでいくことだと思います。また、職員一人ひとりが、常に身体拘束について日常業務の中で意識していくことも大切です。「なぜこの行為をやってはいけないのか?」ということを知らないと防ぐことは絶対に出来ません。どんなにベテランの職員でも、常に新しい知識や情報を取り込み、活用していく姿勢を持つことが大切だと思います。