以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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Dr.メッセージ

かぜ(感冒)の特効薬はあるか?
2018年1月
福島県農協会館診療所(所長)
重富 秀一
 昔から「風邪は万病のもと」と言われているためか、喉の違和感、くしゃみ、鼻水などのいわゆる風邪症状が出ると、早く治したいということで診療所を訪れる方が少なくありません。風邪を治す特効薬ってあるのでしょうか。ご承知のように空気中を漂うウイルスや細菌が呼吸とともに体内に入り、鼻腔から上気道の粘膜に侵入して炎症を起こすと鼻症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)、咽頭症状(喉の違和感や痛み)、咳や痰、微熱、倦怠感、食欲不振などの症状を引き起こします。これがいわゆる風邪症状です。原因となる微生物の80〜90%がウイルス、残りの10〜20%は細菌やマイコプラズマなどです。普通感冒(いわゆる風邪)の原因ウイルスはきわめて多く、ウイルスを同定(生物の分類上の所属や種名を決定すること)はきわめて困難です。仮に原因ウイルスが確定しても有効な薬剤はありません。風邪症状を伴う感染症のうち、抗生物質や抗ウイルス薬が有効な病気(細菌、マイコプラズマ、インフルエンザウイルスなど)についてはそれぞれの微生物に効果のある薬を投与することで原因となる微生物を消滅させることができます。それぞれの疾患が流行している時期に特徴的な症状が見られた場合は血液やレントゲン検査を行なって正確に診断して有効な治療を行ないます。それ以外の、いわゆる普通感冒の場合は、対症療法を行ない、安静と保温に努め、栄養をとって自然に治癒するまで経過をみることになります。じれったいと思うかも知れませんが、自分の免疫力で風邪のウイルスを撃退するしかありません。さて、私たちは常に呼吸をしています。きれいな空気であっても埃や微生物が漂っていますので、1日に吸い込む細菌やウイルスの数は10〜20万個だそうです。しかし、鼻や気道の細胞は粘膜で保護され、表面にある繊毛の絶え間ない動きによって異物は常に外へと送り出されていますので、気道の奥まで微生物が侵入することはありません。ところが、空気が乾燥すると粘膜表面が傷つき、繊毛の運動も弱くなって、ウイルスが侵入しやすくなります。空気が乾燥した冬に風邪を引きやすくなるのはこのような理由によります。マスクを着用すると、微生物の吸入を抑制するだけでなく鼻咽頭の湿気も保たれるので、空気が乾燥する冬の風邪予防には効果的です。さて、うがい(嗽)は日本独特の習慣です。うがいが手洗いと同じく感染を予防する効果があると思われていましたが、科学的に実証されたのは最近のことです(図)。水うがいをした群では、特にうがいをしない群に比べて風邪の発症者が40%減少しました。ヨウ素系うがい薬は口腔内の消毒に有効な薬剤ですが、風邪の予防目的では効果がないようです。うがい薬は風邪の予防に有効なだけでなく、口腔内をきれいにする働きもあります。大人の口の中には、なんと300〜700種類の細菌が生息しています。清潔な人の口腔内でも約1000〜2000億個といわれます。ぞっとしますが、私たちはこれらの細菌と共存しており、健康で免疫力が正常な人で問題になることはありません。口の中にいる細菌は唾液によって洗い流されます。唾液の自浄作用が働いていれば良いのですが、加齢や脱水などで唾液の分泌が低下したり、歯磨きを怠ったりすると細菌が繁殖します。歯垢や舌苔には多くの細菌が潜んでいます。これらの細菌には全身疾患の原因菌も含まれているので注意が必要です。口腔内に細菌が増えると鼻や喉の粘膜は障害されやすくなり、外から侵入した細菌やウイルスが細胞内に侵入する可能性も大きくなります。口腔内を清潔に保つことは肺炎やその他の全身疾患の予防にも有用と思われますので、風邪の季節だけでなく、普段からうがいをして口の中を清潔に保つように心がけてください。風邪とインフルエンザの区別が難しい場合があります。体温が37℃前後で症状が軽くともインフルエンザウイルスが検出される場合があります。インフルエンザの場合は48時間以内に抗インフルエンザ薬による治療を開始しないと薬の効果が十分発揮されません。インフルエンザの流行期に風邪症状が出た場合は、自己判断せず、医療機関を受診してください。ところで、市販されている風邪薬は500種類以上あります。軽い風邪症状を抑えるために市販薬を服用するのは良いのですが、数日服用しても改善しないときは診察を受けましょう。


(出典:Satomura K. Am J PrevMed.2005;29:302-7)

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