近年の乳がんの動向と最新の乳がん検査「トモシンセシス・マンモグラフィ」について
2022年1月放送JA福島厚生連、鹿島厚生病院で診療放射線技師をしております川上と申します。近年の乳がんの動向と最新の乳がん検査「トモシンセシス・マンモグラフィ」についてお話します。 1.近年の乳がんの動向 厚生労働省の2015年の報告によりますと、日本国内の死因第一位は「悪性新生物」いわゆるガンで、女性の腫瘍部位別罹患率は乳がんが1位、死亡率は4位となっており、死亡数は年間1万3,000人、毎年5~6万人が乳がんに罹り、約1万人が乳がんで亡くなっています。乳がんに罹る人の割合は、50年前は50人に1人でしたが、20年前には20人に1人、現在では11人に1人と言われており大きく増加しています。これに伴い乳がんで死亡する女性の割合も約30%と年々増加傾向にあります。 日本人女性の乳がん罹患率が増えた原因の1つが「食生活の欧米化」と言われています。かつての日本の食卓はご飯と味噌汁に食肉や魚介類等を主菜として1品、野菜や海藻、豆腐などを2品の一汁三菜が一般的でした。現在は食生活の欧米化によって高たんぱく、高脂肪の食事が主流になったことで栄養状態がよくなり、その結果として女性は初潮を迎える年齢が低くなり、また閉経を向える年齢が高くなる傾向にあります。月経がある間は女性ホルモンの分泌が多いため、女性ホルモンにさらされる期間が長くなったことが乳がん増加の原因の1つと考えられています。 一方、乳がん先進国のアメリカを見ますと、アメリカ国内の乳がん罹患数の公式統計(2013年版)では浸潤性乳がん罹患数は23万人、乳がんによる死亡者3万9000人、8人に1人が生涯の間に乳がんに罹ると発表しています。日本も近いうちに8人に1人くらいの割合まで増加するのではないかと予測されています。 乳がんによる死亡率が高いアメリカでは、国を挙げて乳がんに対する啓発とマンモグラフィを用いた集団検診を推進し、50歳以上の乳がん死亡率が20~25%減少しました。 しかし日本では乳がんに対する関心や知識がアメリカほど浸透しておりません。多くの方は定期健診に行かない、またはしこりなどの自覚症状が出てからようやく検査を受けたり、病院を受診する人が多い傾向にあります。検診が浸透しているアメリカに比べ、日本は早期発見の割合が低くなっている可能性があります。乳がんは早期発見できれば完治が十分に可能です。定期健診やセルフチェックがとても有効であると考えられています。 2.トモシンセシス・マンモグラフィ 乳がんの早期発見には乳がん検診でマンモグラフィを受けることが最も効果的です。このマンモグラフィですが、近年新しい装置が開発され、従来のマンモグラフィでは発見できなかった病変を発見することができる「トモシンセシス」と呼ばれる画像を得ることができます。 トモシンセシスは従来のマンモグラフィ検査に追加された機能の名称で、 断層を意味するトモグラフィ【Tomography】と合成を意味するシンセシス【synthesis】の二つの言葉から作られた造語です。読みづらいので「3Dマンモグラフィ」と呼ぶこともます。 簡単に説明しますと従来のマンモグラフィを「レントゲン写真」、トモシンセシスは「CT」と考えて頂ければ良いかと思います。トモシンセシスの原理はメーカによって若干異なりますが、レントゲン写真を異なる位置から10枚程度撮影してコンピュータで断層画像を合成します。乳房の厚さが40mmの場合、40枚の断層画像が生成されます。 従来のマンモグラフィでは乳腺と重なった病変や埋もれた病変を発見することが難しいことが多々あるのですが、トモシンセシスではCTの輪切りのような断層画像なので、乳腺と重なった病変や乳腺の中にある病変を発見する可能性が高くなります。またマンモグラフィで病変のような影が写った場合、トモシンセシスではそれが良性なのか悪性なのか、それとも乳腺の歪みや重なりなのかなど質的診断の精度も向上します。これまで診断に必要であった病変部への針を刺しての細胞診検査をトモシンセシスのおかげで刺さずに済んだ例も増えています。トモシンセシスは高い病変発見能と非侵襲的に高い診断能を兼ね備えた検査と言えます。 3.トモシンセシスは乳がんの早期発見に有用 乳がんを早期に発見する利点は、乳房温存治療が可能になる、治療期間が短くて済む、治療費が少なくて済む、などがあげられます。治療後もQOL(生活の質)を下げずに生活することが可能です。早期発見ができれば、乳がんは決して怖い病気ではありません。トモシンセシスは従来のマンモグラフィで発見できなかったがんを発見する可能性が高いことから早期発見には非常に有用であると考えられています。 4.JA福島厚生連グループの乳がん検診 JA福島厚生連では白河厚生総合病院・塙厚生病院・坂下厚生総合病院・鹿島厚生病院の計4施設で乳がん検診を実施しています。うち白河厚生総合病院と鹿島厚生病院では最新型のマンモグラフィ装置が導入されトモシンセシスが撮影可能となっています。トモシンセシスは厚生病院に限らずオプションとなっている施設が多いのですが、その価値は十分にあります。より早期での乳がん発見のため是非トモシンセシス・マンモグラフィでの乳がん検診をご検討ください。